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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)251号 判決 1948年6月03日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人袖崎佐一郎辯護人古賀俊郎上告趣意第一點について。

本件公判請求書には、所論のように「柳川區裁判所檢事局檢事松岡幸雄」が「柳河區裁判所」に對し、被告人を銃砲等所持禁止令違反として起訴したがごとき形式となっているが、新憲法の施行に伴ない裁判所法及び檢察廳法の実施せられた後には、柳河區裁判所及び同檢事局は廢止せられ、從來の區裁判所及び同檢事局所在地には、その直近上級の地方裁判所及び地方検察廳の支部がそれぞれ設置せられることとなり、從って舊柳河區裁判所及び同檢事局の後には、福岡地方裁判所柳河支部及び福岡地方検察廳柳河支部がそれぞれ設けられるに至ったことは一般周知の事柄である。しかのみならず、前記公判請求書には「福岡地方検察廳柳河支部印」と表示された立派な大きな廳印がしかと押捺されているのである。ただ本件において憲法施行前に印刷された「柳河區裁判所檢事局檢事」「柳河區裁判所御中」という不動文字を用いた公判請求書用紙を、そのまま訂正もせずに不用意に使用したことは、甚だ輕卒であったとの非難を免れることはできない。しかし、これは單に形式上の瑕疵に過ぎないものであって、その実質においては福岡地方検察廳柳河支部檢事松岡幸雄が福岡地方裁判所柳河支部に對し、本件公訴を提起したものであることは、容易に認識し得られるところであると言わねばならぬ。されば、本件公訴を不適法であるとする論旨は、理由なきものである。

同第二點について

檢事松本一成の本件控訴申立書は昭和二十二年六月二十六日(控訴期間最終日)附で福岡高等裁判所宛になされている。そして、この控訴申立書には、福岡地方裁判所柳河支部使用のゴム印が押捺せられ前記日附が記入せられ、且つ同支部判事及び書記がそれぞれ確認の捺印をしている。その上記録中には前記日附に控訴の申立があった旨を翌二十七日福岡地方裁判所柳河支部が被告人に通知した葉書の寫が綴込まれている。これらをもって見れば、本件控訴申立が適法の期間内に適法になされたことを認めることができる。ただ記録中に存する接受證明書によれば、本件控訴申立書は昭和二十二年六月二十六日午後七時提出せられた旨が記載され、作成者は柳河簡易裁判所宿直裁判所書記佐藤寿造となっている。しかし、本件におけるがごとく地方裁判所支部と簡易裁判所とが同一建物内に存する場合には、宿直員は双方の受附事務の掌に當るものであることは、當裁判所に顕著な事実であって、福岡高等裁判所宛の本件控訴申立が控訴期間内に原裁判所である福岡地方裁判所柳河支部に到達したことは、疑を容るる餘地がない。從って論旨は理由がない。

よって、刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

本判決は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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